第3回:野球選手の年俸=地代!? 2002年8月15日(木)

毎年、5月になると「長者番付」というのが発表されますね。これはいったい何なのかというと、一定以上の納税額を支払った人を対象に、その納税額を一覧にしたものです。我々一般人が興味を示すのは、政治家だのタレントだののそれですが、実は普通の一般市民でも長者番付に載ることは充分あり得るんですよ。要するに、番付に載るだけの納税額を満たして、ちゃんとに支払えばいいわけで…かつては一般市民が長者番付第1位を獲得したこともあるそうです。確かこの時は、相続税の支払いで長者番付入りしたと思いましたが…かなりのものですよね。。

さて、このような特殊な例を除いては、納税額が多いとはすなわち、その人の所得が多いわけです。(ここでは、労働によって得られる賃金のみを所得とし、それ以外の収入は省いています)タレント部門やスポーツ選手部門の長者番付を見てみると、納税額○百万だの○千万だの、「おまえら、いったいいくら稼いどんじゃ!」と言いたくなるくらいの納税額が目白押しなわけですが、そもそも彼らの所得って、なぜあんなに多いんでしょう?このことを考えるために、ちょっと変わった視点から見てみようと思います。

前回、農地の地代の決定方法を考えました。この時、農地を需要する農家は、Rという地代を支払って土地を借りると仮定していましたが、ここでこの農家に土地を貸す側の主体について考えます。ある主体が、Liだけの土地を持っているとします。(LはLandの頭文字で、土地を示します)この主体が所有している土地は、特に使用目的が定められていないとして、ある目的のために土地を転用するための費用はまったくかからないと仮定します。たとえばこの例では、農家がこの主体から土地を借りて、農地として土地を灌漑・整備するための費用がゼロであることを意味します。ある主体が資本を所有しているとき、その資本を別の用途に使用していれば得られたであろう利潤のことを、経済学では機会費用といいます。この例では、この主体は土地Liを何の目的にも利用せず空き地のままにしておくことの利益はゼロであり、すなわち土地を供給することの機会費用は、その土地の供給量の大きさに関わらずゼロになりますね。よって、土地供給の機会費用がゼロであれば、土地を所有する主体は地代がいくらであろうと、所有する土地を最大限供給しようとします。このことより、土地の供給曲線は、縦軸に地代、横軸に土地供給量を示すと、土地供給量がLiである点を通る垂直な線になります。

土地の供給曲線が決まったので、次は土地の需要曲線がどう決定されるか見てみましょう。前回、地代と土地の需要量の関係式を導き出していますので、それをここでもう一度再掲しましょう。

R=P×{1/(dL/dx)}

この式は、ある農家が直面する需要曲線に等しいものなので、この需要曲線と、上で求めた供給曲線が交わる点で、土地の需給は均衡します。供給量は地代に関わらず一定なので、ここでは均衡地代が決定されるわけです。ここで、生産要素の供給者(ここでは土地を貸す主体)に対して、その供給量を引き出すために最小限支払わなければならない対価をk0として、実際に支払われている対価をk1とします。(k1-k0)を、経済地代といいます。今回の例では、土地の転用費用がゼロであるという仮定のもとでは、土地供給の機会費用がゼロであるため、k0=0です。よって、実際に支払われている対価、すなわち地代の全額は経済地代です。

以上の考え方を、プロ野球選手の年俸に当てはめてみます。彼らのプレーは、経済学的には労働サービス供給です。また、それに対する報酬は年俸です。しかし、彼らは年間数億円という年俸が得られないとしても、別の球団に所属して、プロ野球選手としてプレーするでしょう。プロ野球選手のプレーを引き出すために最低限必要な年俸をk0円であるとすると、経済地代の定義よりk0円を超える部分の年俸は経済地代と言えます。k0円とはどれくらいの大きさになるかというと、この人が普通の企業に就職して若いときにノンプロの選手として過ごし、その後その企業で普通に仕事に就いたときに得られる生涯賃金から計算される、年間あたりの平均賃金程度であろうと考えられます。これはすなわち、この人がある球団に所属して、プロ野球選手として過ごすことの機会費用であるわけです。こう考えると、プロ野球選手の年俸の大部分は経済地代であると言うことができます。

何もプロ野球選手に限らず、特殊な職能を持ってそれを活かす仕事をしている人々の賃金には、経済地代が含まれていると考えることができます。要するに、所得が高い人々は高い経済地代を得ているわけです。経済地代がどれくらいの大きさになるかは、その業種と同等のサービスに対する需要と供給の相対的な関係によって決まります。そのサービスを供給できる主体が絶対的に少なければ、需要と供給の関係によってそのサービスに支払われる対価(すなわち、経済地代)が高くなりますね。以上を総合すれば、他の何人にも真似できないような特別な能力を活かして仕事をしているから、プロ野球選手やタレントの所得は高くなるわけです。逆に言うと、それだけの能力を持つ人々が増えれば、彼らの平均年俸は下がるわけです。平均所得が下がった例では、医者などが挙げられます。かつては医者の所得は普通のサラリーマンに比べ相当大きいものでしたが、今ではかつてほどの所得の差はないようです。

将来、高い賃金を得て、楽して生活したいと考えているみなさん!以上をふまえてたくさんの所得を得るための条件は、以下の2つであると考えられます。がんばってくださいね♪

@そのサービスに対する需要が大きい

Aそのサービスにおいて、長期的に見て誰にも真似をできないような職能を身につける

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