第31回:自由貿易と関税 2003年6月8日(日)

日本は、非常にさまざまなものを輸入に頼っていますね。石油や天然ゴムなどは、その最たる例です。そして、逆にさまざまなものを海外に輸出してもいます。車や工業製品などが挙げられますね。このような「貿易」によって得られる利益って何でしょう?以下では、全く制限がなく、関税もないという意味での「自由貿易」と、関税が課せられる場合の貿易とで、どのような違いがあるかを考えてみようと思います。

財Xの市場は完全競争市場であるとして、点Eが貿易を始める前の均衡点です。このときの社会的厚生は、面積AEBになりますね。それでは、ここで自由貿易が開始されたとします。このとき、この国は財Xをある輸入量までは、一定の国際価格P1で輸入できるとします。この仮定のもとでは、この国は国際価格P1の点で水平な直線上で輸入することができます。この直線は、この国が直面する外国からの輸入曲線です。この仮定の意味は、輸入量が上の図に示された範囲にとどまる限り、この国の財Xの輸入量が世界全体の財Xの輸出量に占める割合が小さいので、国際価格P1には影響を及ぼさないということです。この仮定を、「小国の仮定」といいます。他方、この国の輸入量が世界全体の輸出量に占める割合がある値を超えれば、価格P1よりも高い価格でなければ輸入できなくなるでしょう。そのとき、この国が直面する外国からの輸入曲線は、輸入量がある水準を超えると右上がりになります。この場合、この国は財Xの輸入について「大国である」といいます。

さて、このような自由貿易のもとで、国際価格がP1であれば、国内の生産者はP0(つまり貿易開始前の均衡価格)で財Xを販売することはできなくなります。国内の完全競争企業は、価格P1を与えられたものとして受けとって、X1だけ生産します。なぜなら、企業はその生産量を、供給曲線によって決定するからです(ちなみに、上図の青い直線Sが、供給曲線です)。他方、価格がP1であれば、国内需要はX2になります。この国は、国内需要量X2と、国内生産量X1との差、すなわち線分CFで示される量を、価格P1で輸入することになります。

自由貿易後は、消費者たちは価格P1でX2だけ消費しているので、消費者余剰の大きさは上の図で面積AFP1に等しくなります。貿易前の消費者余剰はAEP0だったので、自由貿易によって消費者余剰はP0EFP1だけ増加しています。これは、自由貿易によってより安く、より多く消費できるようになることの、消費者にとっての利益です。他方、国内の生産者余剰は、貿易前には面積P0EBでしたが、自由貿易後にはP1CBになるので、P0ECP1だけ減少しています。自由貿易後の社会的厚生は、今求めた貿易後の消費者余剰と生産者余剰との和なので、

自由貿易後の社会的厚生=面積AFP1+面積P1CB となります。

自由貿易前の社会的厚生は面積AEBでしたから、社会的厚生は自由貿易によって面積EFCだけ増加します。このような社会的厚生の増加をもたらす要因は何でしょう?まず1つが、国際価格に比べて割高である国内生産量がX0からX1に減ることによって、この国の国民が負担しなければならない費用が、次のように減少します…もしも(X0−X1)を国内で生産すると、その分の可変費用は供給曲線のX1からX0までの下側の面積に等しいので、面積CEX0X1になります。それに対してこの国がこの分を輸入すれば、そのときの負担(すなわち、輸入するために外国に支払う金額)は面積CGX0X1です。したがって、国内生産量を(X0−X1)だけ減らして輸入することによって、国民の負担は前者から後者を差し引いた面積EGCだけ減少し、それだけ消費者余剰が増加します。そして第2に、自由貿易によって消費量はX0からX2に増えますが、これによって消費者余剰が面積EFGだけ増加します。以上、2つの要因によってもたらされる面積の増分の和は、

面積EGC+面積EFG=面積EFC となり、社会的厚生の増加分に等しいです。

消費者余剰は、自由貿易によって、上の2つに加えてさらに面積P0ECP1だけ増加しています。他方、自由貿易によって、生産者余剰は面積P0EBから面積P1CBに減少しています。したがって、消費者余剰の増加分のうちの面積P0ECP1は、生産者余剰の減少分に等しいことがわかります。すなわち、自由貿易は生産者余剰の一部を消費者に移転することによっても、消費者に利益をもたらすことになります。しかしこれは国内の生産者から消費者への利益の移転ですから、社会的厚生を増やすものではありません。

それでは、輸入に対して関税をかけて国内の生産者を保護した場合には、消費者余剰、生産者余剰および社会的厚生はどのように変化するでしょう?自由貿易の分析と同じく、財Xの輸入について小国であると仮定しましょう。

上の図で、国際価格をP1として、輸入1単位当たりt(縦軸上の、青線部分)の関税をかけたとしましょう。このとき国内の輸入業者は、外国から財Xを1単位当たりP1で輸入して、それに関税tを上乗せして販売しようとします。したがって、輸入製品と競争している国内の生産者も、(P1+t)円で販売することができるようになります。均衡点は関税がかけられると、自由貿易の時の点Fから、点Iへと移動します。輸入量は線分CFから線分HIに減少しますが、国内生産量は関税前よりもCJだけ増加します。(P1+t)=P2とすれば、関税をかけた場合の消費者余剰と生産者余剰は、それぞれ以下のようになります。

消費者余剰:面積AIP2
生産者余剰:面積P2HB

他方、輸入量HIに関税tをかけて得られる、面積HIKJに等しい関税収入が存在します。これは国民の誰かに支払われて、その人の余剰になりますから、社会的厚生の一部です。関税が課せられた場合の社会的厚生は、以上の3種類の余剰の総和に等しいので、

関税課税時の社会的厚生=面積AIP2+面積P2HB+面積HIKJ となります。

これを、自由貿易時の社会的厚生と比較してみましょう。すると、関税が課せられると、それが課せられない完全な自由貿易の場合よりも、次の面積だけ社会的厚生が減少すること、およびその減少は消費者余剰の減少の一部を構成することがわかります…まず、社会的厚生の減少分は、以下の面積で示されます。

社会的厚生の減少分=面積HJC+面積IFK

そして、生産者余剰を比較してみると、

関税課税による国内の生産者余剰の増加=面積P2HCP1 であることがわかります。

この生産者余剰の増加は、自由貿易の時の消費者余剰の一部が、国内生産者に移転したものです。以上の分析からわかるとおり、輸入関税は割高な国内生産の増加による費用負担の増加と、消費量の減少による消費者余剰の減少を通じて、自由貿易と比べて社会的厚生を減少させます。しかし、国内生産者は消費者余剰の一部が移転されることによって利益を受けます。それに対して消費者は、輸入関税によって、社会的厚生の減少分と国内生産者に移転した消費者余剰の合計に等しい不利益を被ることになります。

次回からは、補説コーナーです♪

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