第30回:税金のお話〜間接税の経済効果〜 2003年5月31日(土)

「消費税」なるものが導入されて、もうかなりの年月が経ちますね。いまさら消費税って何?という問いにいちいち答える必要もないとは思いますが、実は消費税といわれる税金には2種類あるのをご存知でしたか?普段、我々がかかわっている消費税は、正式には「一般消費税」といいます。これは、どのような財の消費に対しても課す税金のことを意味します。これに対して、ある特定の財の消費に対して課す税金を「個別間接消費税」、または簡単に「間接税」といいます。以下では、後者の方について話を進めていきたいと思います。

今、間接税の納税主体は、間接税の課税対象となる財の生産企業であるとしましょう。このとき、この企業は財を1単位売るたびに一定税率(ここでは、税率をt円と仮定します)の税金を支払わなければなりませんが、このことは企業の短期限界費用があらゆる生産単位についてt円だけ増加することと同じです。この点を考慮して、間接税の短期における経済効果を考えてみましょう。間接税が課せられる前の均衡価格をP0、均衡需給量をX0とします。間接税が導入されると、あらゆる生産単位について限界費用がtだけ増加するので、短期供給曲線は上方にtだけシフトします。課税後の均衡価格をP1、均衡需給量をX1としましょう。

このとき、消費者の購入価格はP1ですね。企業は、財1単位をP1円で消費者に売って、それからt円だけ納税しますから、財1単位あたりの税抜き価格は(P1−t)円です。この大きさをP2としましょう。(P1−P2)=tで、消費量がX1ですから、税金の総額は(P1−P2)×X1になります。この税金は、どのように負担されているのでしょうか?税の負担に関しては、課税前の均衡価格を基準にして考えるのが合理的でしょう。消費者は、課税前には1単位当たりP0を支払っていたが、課税後には税込みでP1を支払うことになります。このことは、この消費者にとっての価格上昇分(P1−P0)が1単位あたりの税負担になることを意味します。消費者全体の税負担総額は、これに市場全体の消費量であるX1をかけたものになります。他方、企業は課税前には1単位当たりP0を受け取っていたが、課税後の税引き後の受け取りはP2になります。したがって、企業の単位あたり税負担は(P0−P2)になり、企業の税負担の総額は、これに販売量X1をかけたものになります。

ここまで読んでみて、「…んっ?」って思った人は、ちょっと鋭いかもしれません。この分析の前提条件として、「間接税の納税主体は、間接税の課税対象となる財の生産『企業』である」ということを言っているにもかかわらず、上の分析の結果「消費者も税を負担している」とは…。。。この消費者負担分は、間接税が課税された結果発生する価格の上昇を通じて生じるものです。このように、納税する主体は企業だが、消費者が価格の上昇を通じて税の一部を負担するとき、「税が転嫁された」といいます。税がどれだけ消費者に転嫁されるかは、需要と供給の「価格弾力性」に依存します。価格弾力性とは、価格の変化に対して財の需要量(供給量)がどれだけ変化するかを示す値です。

それでは、間接税によって社会的厚生はどのように変化するでしょう?この市場を完全競争市場としたとき、前回の知識の泉の結論から、まず課税前の消費者余剰の大きさは、課税前の均衡価格P0で一定な直線と、縦軸と、需要曲線とで囲まれる三角形の領域の面積に等しいです(イメージが沸かない人は、前回の知識の泉の図を見てみてください♪)。しかし、課税後の税込価格がP1になることから、課税後の消費者余剰の大きさは、課税後の均衡価格P1で一定な直線と、縦軸と、需要曲線とで囲まれる三角形の領域の面積と等しくなります。P1>P0ですから、課税後の消費者余剰は課税前の消費者余剰よりも小さいものになります。次に、生産者余剰の変化を考えましょう。企業の税込み総収入は、価格P1と生産量X1の積です。また、税込みの可変費用は供給曲線の下側の面積です。生産者余剰とは前者から後者を差し引いたものでしたから、結局課税後の生産者余剰は、課税後の均衡価格P1で一定な直線と、縦軸と、課税後の供給曲線とで囲まれる三角形の領域の面積と等しくなります。

この2つに加えて、税が課せられる場合には、税収の余剰も社会的厚生に含まれます。なぜなら、いったん国庫に集められた税金は、最終的には国民の誰かに支払われて、その人の利益になるからです。税金の総額は、上の分析から(P1−P2)×X1であり、以上の「消費者余剰」・「生産者余剰」・「税収総額」の総和が、課税後の社会的厚生となります。これは、需要曲線と供給曲線で囲まれる三角形の領域のうちの、生産量が0からX1までの部分で表される台形の面積に等しくなります。課税前の社会的厚生は需要曲線と供給曲線とで囲まれる三角形の領域の面積に等しかったので、結論として「間接税の課税によって、社会的厚生は減少する」ということになります。

税金は国民の負担となりますが、その税金から支払いを受ける国民は利益を受けます。したがって、その限りでは税負担と国民の利益とは相殺されます。しかし、課税によって減少した社会的厚生は相殺されずに国民の負担として残ってしまいます。この社会的厚生の減少分を、この間接税の「超過負担」(あるいは、「死荷重損失」)といいます。このように、個別間接消費税は超過負担を生むという点で効率性を阻害するのです。よって、この基準からすると、超過負担ができるだけ小さな税金を課すのが望ましいということになります。

次回は、社会的厚生のお話の最終回、自由貿易と関税のお話を書こうと思います♪

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