第37回:広告の経済効果 2003年7月26日(土)

みなさん、テレビや雑誌などを見ていると、ほぼ必ずといっていいほど「広告」が目に留まると思います。最近の広告、とくにテレビのCMに限って言わせてもらうと、さまざまな有名人を起用して、商品そのものはそっちのけで、どちらかというと起用したタレントのイメージなどをフル活用して、間接的に訴えかけるタイプの広告が多いように見うけられるのですが、今回はこの「広告」についてお話してみようと思います。

今までの知識の泉で、何回か「情報の非対称性」というのをテーマにしたと思いますが、今回もこの「情報の非対称性」という点に注目してみたいと思います。ある財があるとして、この財についてどの企業がいくらで販売しているか、消費者が価格に関する情報を持っていない場合を考えてみましょう。財の品質が均一であれば、完全情報のもとでは全ての売り手は競争の結果、同じ価格で財を販売します。なぜなら、ライバル企業より高い価格をつけるような売り手から買おうとする消費者はいないからです。しかし、どこの店が安く売っているかを消費者が知らなかったとしたら、どうなるでしょうか?安い店を探すために時間と費用がかかるとしたら、消費者は現在買い物をしている店が少々高いと思っても他の店を探そうとはしないでしょう。この結果、売り手は他の面で市場支配力を持っていなくても、このような情報の非対称性のために、完全競争市場より高い価格をつけることができます。

いま、同質の財をm円の限界費用で生産する売り手がN社あるとします。消費者は、これらの売り手の価格分布は知っていますが、どこの店がいくらの値段で売っているか知らないので、価格を確かめるには店を直接訪れなければならないとします。店を訪れるための費用が1軒当たりs円だとすると、この財の均衡価格はいくらになるでしょう?まず、完全情報のもとでは、各売り手間の競争を通じて、完全競争市場と同じ結果となるので、この財の均衡価格はその限界費用に等しいm円になりますね。しかし、いま考えているのは、上で仮定したような不完全情報のもとでの分析です。他の売り手が皆、限界費用mで財を販売しているとすると、N番目の売り手は(m+s)円まで価格をつりあげても、客をよその店に奪われないので値上げしようとします。なぜかというと、消費者は安い店を探すためにために最低限s円を費やさねばならないからです。この結果、完全情報のもとでの均衡価格は、不完全情報のもとでの均衡価格にはならないことがわかりますね。それでは、他の売り手が皆(m+s)円をつけたとすると、N番目の売り手は上とまったく同じ理屈で(m+2s)円まで値段をつりあげても客がよその店へ行かないので、値上げしようとします。このプロセスを経て、最終的には消費者の留保価格r円まで値上がりすることになります。

逆に、他の店が留保価格r円で売っているときに、1社だけ値下げする要因はあるでしょうか?仮に1社だけが値下げを下としても、消費者が実際にどの店が安く売っているかを知るためには1軒当たりs円の探索費用をかけなければなりません。店の数(N)が多ければ、安い店を探し出すために予想される探索費用も多額になり、消費者は安売り点を探そうとしないので、値下げをしても販売量を増やすことはできません。したがって、Nが大きいときは唯一の均衡価格は留保価格rに決定します。さらに、消費者は留保価格r円を支払うと、消費者余剰がゼロになります。したがって、もし最初の店を訪れるにも費用をかけなければならないのであれば、消費者はいずれの店にも訪問しないので、市場は存在しなくなります。

以上のように、売り手が多数同質の財を販売し参入制限がなくても、情報の非対称性のもとでは、企業は独占価格(この場合は、留保価格)を設定して、場合によっては市場そのものを破壊してしまいます。ただし、現実にはこのような非効率は回避されています。まず第一に、企業は消費者に情報を提供することによっても競争しています。この「情報」こそが、今回のテーマである広告にあたります。また第二に、ある店できわめて高い価格を要求された客は、二度とその店には行かないだろうし、またそのような評判が立てば他の客もその店に行かなくなります。この結果、短期的な独占力の発揮は、企業自らにとってもマイナスになり得るのです。

さて、企業が広告を出す場合、当然費用がかかりますね。企業は広告にかける支出をどのように決定するでしょうか?まず、ある企業が販売する財の価格Pと、それに対する広告量Aを決定するとします。財の販売量qは価格水準Pと広告量Aに依存します。企業が広告支出を拡大すると、市場需要曲線は右方にシフトします。広告は1単位あたりT円の費用がかかるとすると、広告総費用はTA、勢さんの限界費用をC円とすると、生産費用はCqで表すことができます。このときの企業の利潤は、

π=Pq−Cq−TA です。

上の左辺を最大にするように、企業はPとAを決定します。そのためには、限界収入と限界費用が等しくなるように、PとAをそれぞれ選ぶのが最適です。まず、価格については1単位の値上げによる収入の増加と、1単位の値上げによる販売量の減少のマイナス効果が一致するように価格水準を決めます。これはすなわち、

∂π/∂P=q+(P−C)(∂q/∂P)=0 を満たすPです。

上の式より、以下の条件が得られます。

(P−C)/P=1/εP (ただし、εPは需要の価格弾力性)

また、広告量Aについては1単位の広告増による販売量の増加が収益を拡大させる効果が、広告の限界費用Tと一致するようにその水準を決めます。すなわち、

∂π/∂A=(P−C)∂q/∂A−T=0 を満たすAです。

εA=(A/q)|∂q/∂A| を広告に対する需要の弾力性と定義して、この式を上の価格の条件式に代入すると、

TA/Pq=εAP という関係式が得られます。

この関係式は、最適広告費の条件を表しています。企業利潤を最大にする「広告費売上高比率」(つまり左辺)は、広告に対する需要の弾力性と、需要の価格弾力性の比率に等しくなります。需要の価格弾力性が低く、広告が需要に与える比率的効果が大きいほど、売上高に占める広告費の比率は高くなります。これはなぜかというと、需要の価格弾力性が低いと、価格と限界費用との差が大きくなるので、企業が販売数拡大によって得られる利益が大きく、また広告への需要の弾力性が高ければ、広告支出拡大によって販売数量が拡大する効果が大きいからです。香水や化粧品など品質やブランドイメージが重要な商品では需要の価格弾力性が低く、広告への需要の弾力性が高いために、このような産業では広告費売上高比率が高くなっています。

次回は、広告が社会的厚生に与える影響について書いてみようと思います。

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