第1回:国債って、安全なの? 2002年8月4日(日)

「国債」って、何だかご存じですか?言葉くらいは耳にしたことがあると思います。そして、言葉を聞いた限りでは、みなさんの予想する「国債」の意味と、本来の国債の意味とは、そう大きな差はないと思います。

ごく簡単に説明しますと、国債というのは、国の借金のことです。国の支出を増やす財政政策(拡張的財政政策とも言われる)をとった場合に、支出の財源は基本的に税金です。税金だけではまかないきれない国の支出の財源として、国は国債を発行します。国債には大きく分けて2種類ありまして、「利付き国債」と「割引国債」があります。利付き国債とは、国債の償還期限まで一定の年利率で利息をもらえるタイプの債券、割引国債とは、本来の額面価格より安く売り出されて、満期の時に額面金額にて償還されるタイプの債券です。たとえば、額面100万円の利付き国債だったら、購入時に100万円支払い、以後満期日まで半年ごとに一定の利子を受けられ、満期日に100万円が償還されます。額面100万円の割引国債だったら、購入時に支払う金額は100万円未満で、満期日に100万円が償還されるわけです。ちなみに償還期限とは、「この期限までに額面を返済しますよ」と約束する期限です。償還期限の長さによって、中期国債・長期国債・超長期国債に分類されます。中期国債とは償還期限が2〜6年のもの、長期国債とは償還期限が10年のもの、超長期国債は償還期限が10年を越えるものを指します。

昨年には、国債をPRするテレビCMも放映されたりしましたが、そもそも国債って、金融商品として安心して購入できるものでしょうか?ときどき「国債は満期になったら必ず返ってくるから…」という声を耳にしますが、たしかに国債では、償還金額が保証されています。満期日に、額面金額で必ず償還されます。ただし、これはあくまで購入した国債の本券を満期日まで保持していたらの話。要するに、現金と同じで盗難にあったり消失してしまったらジ・エンドです。(もっとも、購入者自身が債券を保管することはほとんどなくて、普通は金融機関が管理します。)あくまで額面が保証されているだけなので、資産運用として国債を購入しない限りは定期預金しているのとほとんど変わりがないと言っていいでしょう。

金融商品として国債を購入するということは、利益を得るために国債を購入するということです。国債の売買が行われる市場を、債券市場といいます。債券の需要と供給が一致することを債券市場が均衡するといいますが、債券市場の均衡のカギを握るのは利子率です。それでは、利子率が変動すると債券市場ではどのような動きが見られるのでしょう?話を簡単にするために、例として額面金額がA円、年利率がαである永久確定利付き債券(満期がなく、購入したら永久的に利子がもらえる債券。コンソル債券ともいう)を考えましょう。今、A円でこの債券を買った場合、来年得られる利子はαA円です。これは当たり前ですね。しかし、これはあくまで来年の貨幣価値での利子なのです。今、市場利子率が100r%だとしたら、来年のαA円の現在価値は、たかだかαA/(1+r)円にすぎません。なぜこうなるかというと、現在αA/(1+r)円だけ持っていれば、それを運用して利子を稼ぐことによって来年には元利合計がαA円になる(∵{αA/(1+r)}×(1+r)=αA)からです。こう考えると、再来年の利子の現在価値は、来年の利子の現在価値をさらに1+rで割り引いた価格になります。このとき、この債券から得られる利子の総額を現在価値で表すと、

B=αA/(1+r)+αA/(1+r)^2+αA/(1+r)^3+αA/(1+r)^4+…

これは、公比が1/(1+r)である等比級数ですから、公式を用いてBを求めると

B=αA/r となります。(わからなかったら、そうなるものだと思っていてください)

さて、上で求めたBというのは、債券を購入することによって得られる利子の総額を表していますが、債券市場が機能している限り、このBが債券市場におけるこの債券の価格と一致します。もし、実際の債券価格がBよりも高い場合は、今債券を売却した方が高い利益が得られることになるので、このような債券は売られることになり、市場価格は下落します。逆に実際の債券価格がBよりも低ければ、債券の市場価格は上昇することになります。このようにして、結局のところこの債券の価格はB円に落ち着く(=均衡する)わけです。Bの決定方法を見ればわかるとおり、市場利子率rと債券価格Bは反比例の関係です。つまり、利子率が上がれば債券価格は下落し、利子率が下がれば債券価格は上昇します。

以上をふまえて、現在債券を購入することの意味を考えましょう。今はデフレでほとんどゼロ金利なので、今後市場利子率が低下するかといえば、あまり期待できません。将来的には利子率が高くなることが予想されるとしたら、現在債券を購入したとして、将来その債券の価格が下落する可能性が高いということになります。よって、金融商品として国債を購入し、資産運用するのは間違いというわけです。今、市場利子率が低くて困っている人が、国債を購入した途端、利子率が高くなると困ってしまうとは…。。。

この「現在の債券価値」という基準で考えると、購入後にインフレーションが発生した場合に損をすることもわかります。インフレーションとは、物価水準が上昇して貨幣価値が下がることを意味します。額面100万円の国債を購入し、満期時にインフレーション率が10%進んでいたとしたら、満期時に償還される金額は確かに100万円ですが、これを現在価値に換算すると100×(1−0.1)=90万円。だからといって、満期前に債券市場に売却するとなると、債券の市場均衡価格であるBの大きさによっては元本割れを起こす可能性もあります。つまり、国債というのは、今の日本の経済状況を考慮する限り、金融商品としては安全でも確実でもないという結論に達します。

なお、「国債の格付け」というのも存在して、これはその国債を発行した国が利息と元本を返せるかという基準で、各国をランク付けしているもの。ちなみに、世界的に有名な格付け会社であるムーディーズ社による格付けでは、日本は上から4番目のランクに位置づけられています。このような「格付け」も、世界債券市場での債券価格に影響をもたらします。当然、格付けが下がればその国の債券価格は下落しますよね。年々債券の発行額面が増えている日本。残高は何と400兆円を超えているとか…国債費を削減するために調整インフレとか言ってましたけど、こんなことしていて国際社会に見限られ、債券価格の暴落を呼んじゃったり…どうなることやら、日本経済。。

※調整インフレ…財政当局が計画的に物価水準を上昇することによって、税収の増加を目的とする。たとえば、物価が2倍になれば消費税も2倍になる。素人目にはかなりアホっぽいと思われる。(死)

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