第16回:生産規模と費用の関係〜規模の経済と外部経済〜 2003年2月23日(日)

今まで何回か、企業がある財を生産してそれを販売する際の、企業の利潤について考えてきました。企業の利潤は、基本的には財の販売によって得られる総収入から、財の生産にかかった総費用を差し引いたものです。よって、財の販売価格に変化がない場合には、単純に財の生産総費用を低くすることによって、企業の利潤は高まります。これは、物価に対して何の影響力も持たない完全競争企業の場合には重要な要素です。よって、どの企業もその生産費用を低くするための努力をします。

さて、ある企業がX単位の財を今生産しているとしましょう。この企業が、短期的に財の生産量を増やすとき、この企業の生産総費用はどう変化するでしょうか?短期における生産費用は、固定費用と可変費用に分かれるということは、以前の知識の泉で書いたとおりです。簡単に復習すると、固定費用とは財を生産する上で必ず負担しなければならない費用です。たとえば、財の生産に使う機械や土地にかかる費用などが当てはまります。可変費用とは、生産量の多寡によって変化する費用です。たとえば、財の生産に必要な原材料などは、財の生産量が増えれば当然その量が増えるため、原材料費は生産量に比例して増加するはずです。以上を踏まえて、企業の生産費用の変化を考えましょう。まず可変費用ですが、これは上で述べたとおり生産量に比例して増加します。

それでは、固定費用についてはどうでしょうか。たとえば生産工場の規模について考えてみましょう。ある単位の生産施設を持っている企業がその生産量を増やすとき、企業はすぐにでも工場の規模を変化させるでしょうか?今、L1単位の生産工場でX1単位の生産を行っている企業があるとして、その企業がX2単位まで生産を拡大しようと考えているとしましょう。しかし、生産量の拡大によって現在の工場規模では満足な供給ができなくなるということは、ほとんどありえないでしょう。現在の規模(L1)のままで、ある程度までの生産拡大に耐えられるはずです。他に、新技術の開発などによって得られる知識は、他の分野に応用するためにかかる費用がゼロですから、このような知識の流用などによってその生産費用を大幅に下げることができるでしょう。以上を総合すると、基本的に固定費用は生産量の増加の度合いに比べて費用の増加が緩やかであると考えられます。

最初に述べたとおり、生産総費用は可変費用と固定費用との和です。1単位の生産にかかる可変費用がVC1、固定費用がFC1であるとすると、生産量を2単位に下場合の可変費用はVC1の2倍になると考えられますが、固定費用については上で書いた理由よりFC1の2倍よりも低くなるでしょう。このとき、生産量が1単位であるときの平均費用(SAC1)と、生産量が2単位であるときの平均費用(SAC2)を比べれば、SAC1>SAC2が成立します。

生産量を増やすことで、その平均費用が低下する場合、「規模の経済がある」といいます。規模の経済とは、少単位の生産を行う企業が多数存在するよりも、多単位の生産を行う少数の企業によって生産を行った方が生産費用の面で効率的であるという、いわば「集中化のメリット」を表しています。規模の経済はどのような産業においても発生するわけではありませんが、規模の経済を有効に活用することはその生産費用を下げることになるので、社会的には望ましいことです。規模を拡大することで企業の生産費用が下がり、その利潤が高まるので、企業は合併や吸収などで企業規模を拡大します。または、生産コストの高い企業を、市場から駆逐することによって市場内での自社のシェアを高めるといった方法も取られます。このような企業の行動は、規模の経済によって得られるメリットが消滅するまで続くわけです。

しかし、中には規模の経済が非常に強い分野もあります。このような分野では、本来1企業が独占して生産を行うのが望ましいのですが、1企業による独占はその企業行動から社会的に望ましくない結果をもたらす(このあたりは、第10回の知識の泉参照♪)ため、社会的に望ましい供給が行われるように政府が規制をするわけです。このような独占形態が、もうおなじみ!?の「自然独占」なのです。

さて、市場の生産量が増加することによって、市場に属する個々の生産費用が低下する場合があります。このように、産業全体の生産量の増加によって、個々の企業の生産費用の低下をもたらす現象を、「マーシャルの外部経済」といいます。たとえば、戦後の日本の自動車産業を例にとってみましょう。戦後日本における経済成長の影響で、人々の所得が増加し、それに伴って人々の自動車に対する需要は大きく増加しました。この結果、自動車の短期的な市場価格は上昇します。自動車市場における既存企業は、短期的には短期限界費用曲線にしたがって生産量を増加させますが、長期的には更なる利潤の拡大を目指して工場規模を拡大します。他方で、上昇後の価格のもとでは既存企業に正の利潤をもたらすので、自動車市場には利潤の獲得を目指して新規の企業が参入します。

市場に属する企業数が増加し、自動車市場全体での生産量が増加すると、たとえばさまざまな自動車部品工場がそれぞれの分野に特化して最適な規模で稼動し、相互に競争し合って安くて良質な部品を大量に自動車組立企業に供給するようになります。これは、個々の自動車組立企業の生産費用を下げることになります。つまり、「マーシャルの外部経済」効果を通じて、個々の自動車組立企業の長期費用と短期費用をともに引き下げる結果となったわけです。かくして自動車の価格は低下し、その供給量は増加する結果となりました。これが、戦後日本の自動車産業が高度経済成長を背景とする自動車需要の増大に対して、大きく成長し大幅なコストダウンが達成されてきた経緯なのです。

次回は、保険について書いてみようかなぁ…って思ってます♪

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