第11回:カルテルの成立 2002年12月14日(土)

前回の知識の泉で、独占企業についてお話をしました。今回はこれに関連して、寡占企業についてのお話です。寡占企業とは、独占企業と同じく価格独占力を持っているが、市場に複数存在しえる企業です。特に、ある市場に2企業しか存在しない形態を複占といいます。今回は、寡占市場に属する企業が競争する場合について考えます。

ある2企業が、生産量で競争する場合を考えましょう。話を簡単にするために、市場の需要曲線は線形(Y−ax+b)とし、各企業の生産費用はC=cqで与えられるとしましょう。ここでcは企業の限界費用で、bより小さい正の数とします。企業1の生産量をq1、企業2の生産量をq2とすると、市場全体の供給量はQ=q1+q2です。この2企業は、お互いライバルの行動を合理的に予想して、自社の利潤を最大化するように生産量を決定します。この場合、どのような結果になるでしょうか?まず、企業2がq2単位生産すると企業1が予想している場合の、企業1の生産量を決定します。企業1の利潤は、企業1の生産量q1に価格Pをかけたものから、企業1の生産費用c1q1を引いたものに等しいので、

π1=PQ−C1={b−a(q1+q2)}×q1−c1q1 です。

また、q2が与えられた場合の企業1の限界収入は、企業1が直面する市場需要曲線をq1で微分したものにq1をかけ、市場価格Pを加えたものに等しいので、

MR1=P+(∂Y/∂q1)q1=b−a(q1+q2)−aq1=b−2aq1−aq2 となります。
(記号∂は、偏微分を表す数学記号です。)

さて、企業の利潤最大化の条件は、限界費用が限界収入に等しくなることです。限界費用は上での仮定でc1となってるので、利潤最大化の条件式は

c1=b−2aq1−aq2 となります。

この式をq1について解いて、利潤を最大化する企業1の生産量q1

q1=(b−c1−aq2)/2a と求まりました。

同様に、企業2の生産量は、q2=(b−c2−aq1)/2a に決定することもわかりますね。R1(q2)=(b−c1−aq2)/2a を、企業1の反応関数といいます。この反応関数を、横軸にq1、縦軸にq2をとった平面状にグラフとして描いた時、各企業の反応関数が右下がりの曲線を描くなら、企業行動の間には「戦略的代替性がある」といいます。また、反応曲線上では各企業とも予想される相手の生産量に対して最適な生産量を選んでおり、均衡点は各企業の反応曲線が交わる点になります。このような点では、お互いに最適な対応をし合っていて、かつライバルの行動に対する予想が現実の生産量と一致しています。このような均衡をクールノー・ナッシュ均衡といいます。

このような寡占の均衡では、1企業が市場を独占していた場合よりも、市場供給量は多くなって、価格も低くなります。しかし、この種の均衡は市場に属する企業があくまで協調せずに行動することを前提とすれば最適な結果なのですが、企業が協調して行動することが可能な場合には最適とはなりません。企業同士が協調して、競争行為を抑えようとする行為のことをカルテルといいます。なぜ企業が協調することで、ナッシュ均衡よりも最適な状況になるのでしょうか?

そこで、具体的にある複占市場における数量競争とカルテルの分析をしてみましょう。企業1の生産量をq1、企業2の生産量をq2とし、両者とも限界費用cは話を簡単にするために0であるとします。市場需要曲線はY=1−(q1+q2)と仮定すると、ナッシュ均衡では

q1=(1−0−q2)/2、q2=(1−0−q1)/2 となります。(上の式参照)

この2本の式を連立方程式として解くと、q1=q2=1/3という結果が求まります。このときの各企業の利潤は、

π={1−(1/3)−(1/3)}×(1/3)=1/9 です。

それでは、もしこの市場が企業1の独占市場であった場合、企業1の生産量と利潤はどうなるでしょう?企業1の需要曲線は市場の需要曲線と一致するので、企業1の限界収入は

MR=1−q1−q1=1−2q1 です。

限界費用は0と仮定しているので、企業1の利潤を最大にする生産量は

1−2q1=0 を解いて q1=1/2 となります。

このときの企業1の利潤は、

π={1−(1/2)}×(1/2)=1/4 となります。

以上より、市場が独占であった場合の利潤は、2企業が存在していた場合の利潤に比べて大きいものになります。そこで、2企業が協調して、生産量を独占市場の場合と同じ水準(すなわち、Q=1/2)に抑えたとしましょう。2企業の利潤の和は当然、独占企業の利潤である1/4に等しくなるので、両企業が生産量を1:1の比で分けたとすれば、利潤も1:1の比になり、各企業の生産量と利潤はq1=q2=1/4、π=1/8となります。数量競争時の利潤は各企業とも1/9でしたから、2企業が結託して生産量を抑えた方が利潤が高いです。つまり、市場に属する企業がお互いに協調して生産量を抑えた結果、各企業ともより多い利潤を獲得できるようになるわけです。これが、カルテルが発生する原理です。この結果は、限界費用が0でなくても基本的に変わりません。

もっとも、カルテル行為は独占禁止法により厳しく取り締まられています。カルテルの例としては、OPECが有名ですね。次回は、このOPECの例を用いて、カルテル崩壊のお話を書いてみようと思います。なぜ、互いに最適な結託をしたのに崩壊するのか?書いてる自分で言うのもなんなんですが、これは結構おもしろいと思うんで、ちょっと期待しててくださいね♪

※偏微分…ある多変数の関数を、1変数についてのみ微分すること。対して、すべての変数について微分することを全微分といいます。高校生で習う、1変数関数の微分はすべて全微分です。経済学では、微分の知識が必要な部分が多いんですけど、微分って文系じゃ詳しく教えてくれないよね…笑

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