第19回:インフレーションT〜総需要と総供給〜 2003年3月15日(土)

インフレーションって、何でしょう?…いきなり不明な切り出し方ですが、みなさんは「インフレーション」という言葉に、どんなイメージを抱いていますか?世間一般の人の多くは、インフレーションと聞くと、あまりよいイメージを抱かないのではないでしょうか。かく言うやまきもそうだったんですが、そもそもインフレーションって何なのかというと、ごく簡単に言ってしまうと「物価が上昇すること」ですよね。そして、単にこの意味だけでインフレーションを捉える人ほど、当然のことながら「インフレーション=悪」という図式が成り立っているはずです。しかし、こう考えてみてください…今、物価水準がいきなり2倍に膨れ上がったとします。しかし、名目賃金率も同時に2倍になったとしたら、人々の平均的な購買力は以前の水準に維持されたままなので、生活水準は低下していません。単純に「物価が上がる」から「悪」とは決め付けにくくなるわけです。事実、「狂乱物価」といわれた1974年には、賃金は物価水準以上に上昇していたといわれます。

「適度なインフレは、景気をよくする」という説があります。これはどういうことかというと、一定率のインフレーションが続くと予想された場合、企業は機械などの設備が安価なうちに投資をしようとするし、消費者も貨幣を持つよりもモノを指向するようになって、消費が活発化します。この結果、生産が拡大して景気がよくなると考えられるわけです…まぁ、残念ながらこの見方は誤りなのですが。。そこでまず、インフレーションについて話を始める前に、物価水準を決定するおおもととなる部分…総需要と、総供給のお話からしてみようと思います。

ある一国の国民によって生産された、すべての財・サービスの付加価値を「国民総生産」(Gross National Product…GNP)といいます。簡単に言うと、国民がある一定期間に生産した財やサービスの総生産金額から、生産に使われた原材料や、中間生産物などの購入額を差し引いた残額のことをGNPというわけです。このGNPは、必ず国民の誰かの所得になります。それは、付加価値が企業内においては賃金や利子、配当、役員報酬、税金など、さまざまな生産要素用役に対して分配されるからです。このようにして稼得される所得は、消費されるか貯蓄されるか、あるいは税金として徴収されるかのいずれかの方法で処分されます。つまり、GNPは消費(Consumance…Cで表します)、民間貯蓄(Savings…Sで表します)および租税(Tax…Tで表します)の和として定義されます。GNPは国民総「生産」、すなわち供給側を表しているので、

GNP≡総供給
   ≡消費+民間貯蓄+租税=C+S+T と定義できます。

他方、需要側は、主として家計によって需要される消費需要と、主として企業によって購入される資本財(機械、工場建物など)に対する民間投資(Investment…Iで表します)、それに政府支出(Government<政府>…Gで表します)から構成されるので、

総需要≡消費+民間投資+政府支出
    =C+I+G と定義できます。

生産された財やサービスの市場(財市場)における均衡は、総供給と総需要が一致することに他ならないので、結局財市場の均衡式は、

S+T=I+G であることがわかります。

今までに扱っていた、ミクロ的な需要関数が、ある単一の財と相対価格の関係であったのに対して、総需要関数は均衡国民所得と、物価水準との関係として定義されます。均衡国民所得をY、物価水準をPとし、Pを縦軸にとる平面上に総需要曲線を図示すると、その形状は右下がりの曲線となります。なぜそうなるかというと、財市場も貨幣市場も均衡している状態から、物価水準Pが何かしらの原因で下落したとすると、実質マネーサプライ(M/P)が上昇するため、利子率が下落します(第15回の知識の泉参照♪)。その結果、投資や消費が刺激されるので、均衡国民所得Yが増加するわけです。Pが上昇した場合には、上で説明したプロセスとまったく逆のことが起こるので、総需要曲線はPが下落すればYが増加する、右下がりの曲線で描かれることになります。

続いて、総供給関数について考えてみましょう。総供給関数は、物価水準が変化したときに、総生産量がどのように変化するかを表すものです。これをどのように導出するか…いくつかの学説はあるのですが、ひとつの例として次のようなモデルを想定します。今、2種類の企業があって、いずれの種類の企業もある程度の独占的な力を持っていると仮定します。第1種の企業は、自社製品の価格を一般物価水準Pと、マーケットにおける需給のギャップの大きさを見て決めるものとします。Pが高ければ高いほど、企業にとっての製造コストは高くなるのでより高い価格をつけようとし、また需要が供給を上回っていればいるほど高い価格をつけようとする誘因が働きます。ここでの需要の大きさは現実のGNPであるYで表されるものとし、他方供給は完全雇用GNP(財市場と労働市場を均衡させる生産量のこと)であるとします。このとき、完全雇用GNPをYFで表すならば、需給ギャップはY−YFで表されます。

上のような想定のもとでは、第1種の企業は自社製品の価格(pとします)を、以下のように決めると考えられます。

p=P+γ(Y−YF) (ただし、γ>0)

さて、第2種の企業は、他の企業がどのような価格付けをするかということを予想した上で自社製品の価格を発表し、しばらくは価格を変更しないものとします(このようなモデルを「硬直的価格モデル」といいます)。そして、この価格で売れるだけ生産するものと考えます。第2種企業の製品価格pは、p=Peとなります。ここでPeとは、他者がつけるであろう価格の平均的な予想値、つまり一般物価水準Pの予想値です。第1種の企業の比率をx、第2種の企業の比率を(1−x)とすると、実際に決まる一般物価水準はこれらの企業がつける価格の加重平均になるので、

P=x{P+γ(Y−YF)}+(1−x)Pe となります。

これをPについて整理したものが総供給関数で、それは

P=Pe+α(Y−YF) となります。(ただし、α=xγ/(1−x))

αは常に正の値を取り、上式は一般物価水準Pが、予想物価水準Peと、経済全体の需給ギャップ(Y−YF)に依存して決定されることを表しています。このように導出された総需要関数と総供給関数が交わるところに、一般物価水準Pが決定されるのです。

さて、次回はいよいよ、今回の話をもとに、インフレーションの話へと本格的に入っていこうと思います♪

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