第25回:補説\〜IS-LM分析A〜 2003年4月26日(土)

前回の知識の泉で、IS曲線とLM曲線について書きました。簡単におさらいすると、IS曲線とは財市場を均衡させる国民所得Yと、実質利子率iの組み合わせで、LM曲線とは貨幣市場を均衡させる名目利子率rと国民所得Yの組み合わせを示すものでした。そして、同一平面上に描かれたIS曲線とLM曲線の交点で決定する利子率と国民所得の水準で、財市場と貨幣市場が同時に均衡します。このような利子率と所得水準を、「均衡利子率」、「均衡国民所得」といいます。

しかし、この均衡利子率と均衡国民所得の組み合わせは、あくまで「財市場と貨幣市場を均衡させる」ものであって、労働市場をも均衡させるとは限らない点に注意が必要です。労働市場が均衡する場合の国民所得は第20回の知識の泉でも書いたとおり「完全雇用GNP」ですから、均衡国民所得が完全雇用GNPを下回る限り、労働市場は均衡に達していません(非自発的失業者が発生している)。

では、このような不均衡がマーケット・メカニズムによって調整されるのでしょうか?結論から言うと、答えは「イエス」です。均衡国民所得が完全雇用GNPの水準に達していないということは、有効需要が不足していることを意味するので、有効需要が不足して失業が存在するならば賃金が切り下げられて、その結果企業の生産コストも低下し、製品価格が引き下げられるので、一般物価水準も下がります。物価水準の下落は、実質マネーサプライ(M/P)の増加を意味するので、LM曲線は右方にシフトします。なぜかというと、この場合貨幣需要に対して実質マネーサプライが増加するので、LM曲線の式から

M/P>L(Y、r) となります。

これが再び均衡状態に戻るために、Yやrはどのように変化するかを考えてみましょう。仮にrが不変に保たれているとすると、貨幣需要のうちの資産需要が一定のままであることを意味するので、実質マネーサプライの増加を打ち消す分だけ取引需要が増加する必要があります。取引需要を増やすためにはYは増加しなければなりません。

次に、Yが不変に保たれているとしましょう。すると今度は取引需要が一定のままなので、均衡状態に戻すためには資産需要を増やさなければなりません。資産需要を増やすためには利子率rが下落する必要があります。以上、いずれにしてもYまたはrが変化することによって、再び貨幣市場均衡が回復し、新しいLM曲線が得られるというわけです。以上のことから、物価水準の下落はLM曲線を右方にシフトさせることがわかります。以上のプロセスを経て、価格が十分伸縮的であるならばやがて、均衡国民所得が完全雇用GNPの水準にまで増加し、財市場・貨幣市場・労働市場が同時に均衡に至ります。ここで問題になるのは、賃金や物価がどの程度、またどれだけの速度で下落しうるかということです。もし、賃金や物価が伸縮的でない場合には、このようなハッピーな結果は得られず、完全雇用GNPは達成できません。

今、財市場と貨幣市場が過少雇用均衡(国民所得が、完全雇用GNPを下回る水準で均衡すること)であるとすると、賃金や物価が短期的に十分な需給調整能力を持たないとすれば、総需要の不足はマーケット・メカニズムにまかせておいても解消されません。その場合、もし失業や不景気のもたらす害悪が社会的に見て、政府の介入がもたらす害悪(民間活動の圧迫や、競争阻害、インフレーションの危険など)に比べて大きいと判断される場合には、裁量的な経済政策が正当化されます。価格が伸縮的な場合のLM曲線のシフトは、物価水準の下落によるものでしたが、物価水準が硬直的な場合でも名目マネーサプライ(M)を金融当局が増加させる政策を取れば、実質マネーサプライをまったく同じように増加させることができます。このような政策を「金融緩和政策」といいます。

このほかにも、公共投資や減税などの政策(これらを「拡張的財政政策」といいます)なども、有効需要を創出するのに有効な手段です。ただし、拡張的財政政策を発動した場合には、LM曲線が移動するのではなく、IS曲線が右にシフトすることになります。なぜ拡張的財政政策がIS曲線を右にシフトさせるのかということですが、まず財市場の均衡式を思い出してみましょう。消費(C)と民間投資(I)と政府支出(G)の和が総需要で、消費(C)と民間貯蓄(S)と租税(T)の和が総供給でしたね。「総需要=総供給」が財市場の均衡式ですから、

I+G=S+T が均衡式になります。

公共投資はGを増加させ、減税はTを減少させますから、財政政策を発動すると均衡が崩れて

I+G>S+T となります。

この結果、実質利子率iが不変であるならば民間貯蓄が増加する必要があります。民間貯蓄が増加するには、それだけ国民所得が増加していないといけません。逆に国民所得が不変のままなら、民間貯蓄額が変わらないので、再び財市場を均衡に戻すには民間投資額が減少する必要があります。そのためには実質利子率iが増加しなければなりません。以上、いずれにしてもiまたはYが変化することで再び財市場均衡が回復し、新しいIS曲線が得られるというわけです。

ところで、拡張的財政政策の発動によってIS曲線を右方にシフトさせて、新しいIS曲線が均衡利子率と完全雇用GNPの組み合わせである点を通るとき、LM曲線は不動のままのため、貨幣市場は均衡から外れることになります。IS曲線が右にシフトしていることから、均衡点はLM曲線の下方に位置しています。LM曲線の下方の点は、貨幣市場における超過需要を表している(つまり、M/P<L(Y、r))ので、利子率rが上昇します。しかし、利子率が上昇すると民間投資は減少するので、結局総需要が減少し、完全雇用GNPは実現できなくなってしまいます。結局、この場合は財市場と貨幣市場を同時に均衡させる点では、国民所得は財政政策発動前よりも増加したが、完全雇用GNPを達成する水準には至っていないことになります。有効需要が増大しても、利子率が上昇する結果、その需要創出効果の一部が減殺されることを「クラウディング・アウト」といいます。財政政策にはこのクラウディング・アウトがつきものなので、その分よけいに財政を刺激しなければなりません。

さて、本線の話から少しそれてしまいましたが、いよいよ今回の本題である、総需要曲線の導出について考えましょう。今回の知識の泉で書いたとおり、LM曲線は物価水準が上昇すれば左に、物価水準が下落すれば右にシフトしますので、IS曲線とLM曲線の交点は物価水準の変動に応じて移動することになります。物価水準が変化したときに、その変化に対応する均衡国民所得は、IS曲線とLM曲線の交点から容易に導き出すことができますが、このようにして得られる物価水準Pと、均衡国民所得Yとの関係が総需要曲線に他なりません。すなわち、Pの変動によってLM曲線がシフトし、その結果得られる均衡国民所得Yと、そのときのPの関係を表すのが総需要曲線なのです。

なんか、本題の方があっさり終わっちゃいましたね…汗。。次回からはまた本説に戻りま〜す♪

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