第24回:補説[〜IS-LM分析@〜 2003年4月19日(土)

総需要と総供給の定義式を覚えていますか?まず総供給ですが、総供給はGNPに一致するということを書いたと思います。GNPは国民の所得であり、所得は消費されるか貯蓄されるか、あるいは税金として徴収されるかのいずれかの方法で処分されます。以上のことから、総供給の定義式は

総供給≡GNP≡消費+貯蓄+租税=C+S+T と表せましたね。

そして、総需要とは主に、家計によって需要される消費需要と、企業によって需要される投資需要、それに政府支出から構成されるので、

総需要≡消費+民間投資+政府支出=C+I+G と表せました。

財市場の均衡とは、総需要と総供給が一致することでしたから、上の2本の式から以下の財市場均衡式が導き出せます。

S+T=I+G

さて、民間貯蓄がもっぱら可処分所得(自由に処分できる所得)に依存すると仮定すると、

S=S(Y−T) と書くことができます。

投資Iについては、実質利子率iによって決まってくるものと考えます。そして、租税Tと政府支出Gは政府が政策的に決定するので所与であると考えると、上の均衡式は以下のようになります。

S(Y−T)+T=I(i)+G

このようにして求められる、財市場の均衡を達成する所得Yと実質利子率iの組み合わせのことを、「IS曲線」といいます。さてこのIS曲線ですが、どのような形状でしょうか?そこで、IS曲線上に存在するYとiの組み合わせとして点(Y0、i0)を考え、この点から出発して今所得がY0からY1に増えたと仮定しましょう。このとき、実質利子率が不変ならば、財市場の需給バランスはどう変化するでしょう?

まず、所得が増加すれば、貯蓄も増加すると予想できるので、上式の左辺が大きくなることは簡単にわかります。他方、右辺は実質利子率が不変という仮定のため、変化しません。よって、所得のみが増加した場合は

S(Y−T)+T>I(i)+G

となり、財市場の均衡は保てないことがわかります。所得がY1のままで均衡を回復するには、上式の右辺が大きくなる必要があるので、利子率は低下しなければなりません。なぜなら、実質利子率が下がれば、投資にかかる実質的な金利負担が低下するので、投資活動が刺激されるからです。このように、iが低下することで再び財市場の均衡は回復します。以上のことから、IS曲線はYが増加すればiが低下する、右下がりの曲線になるだろうということがわかります。

続いて、貨幣市場の均衡式を覚えていますか?第15回の知識の泉でも触れたことですが、貨幣市場の均衡式は

M/P=L と表すことができました。

ここで、Lは貨幣需要を表していて、取引需要をL1、資産需要をL2とすれば

L=L1(Y)+L2(r) です。

この辺の説明については第15回の知識の泉で書いているので割愛するとして、以下では名目マネーサプライMと物価水準Pが所与であるケースを考えます。上式の通り、貨幣需要は所得Yと名目利子率rに依存して決定するので、貨幣市場の均衡式は

M/P=L(Y、r) と書きなおすことができます。

貨幣市場の均衡を維持する名目利子率と所得の組み合わせを示す、上の式を「LM曲線」といいます。それでは、LM曲線はどのような形状なのでしょうか?そこで、IS曲線を考えたときと同様、LM曲線状にある点(Y0、r0)から出発して、名目利子率rが何らかの理由で上昇したケースを考えましょう。まず、名目利子率が上昇すると、債券価格が低下して貨幣に対する資産需要L2は低下します。取引需要L1については、所得に依存して決定するため、変化しません。以上より、利子率の低下は貨幣需要Lを低下させます。よって、

M/P>L(Y、r)

となり、貨幣市場の均衡は維持できません。貨幣市場を再び均衡状態に戻すためには、利子率上昇による資産需要の減少分を補うだけの取引需要を増やしてやらなければなりません。つまり、所得が増加する必要があります。このように、Yが増加することで再び貨幣市場の均衡は回復します。以上のことから、LM曲線はrが増加すればYも増加する、右上がりの曲線になるだろうということがわかるのです。

以上で書いてきたとおり、IS曲線は財市場の均衡を表し、LM曲線は貨幣市場の均衡を表しています。よって、財市場と貨幣市場は、IS曲線とLM曲線が交わるところでは、同時に均衡しているということになります。このとき、実質国民所得も利子率も共に、それ以上いずれの方向にも調整される必要がないと言う意味で、それぞれ「均衡国民所得」、「均衡利子率」ということができます。ただし、ここで注意しなければならないのは、IS曲線で現れる利子率は「実質」利子率であり、LM曲線で現れる利子率が「名目」利子率であることです。第15回の知識の泉で述べたとおり、名目利子率と実質利子率との間には

r=i+πe

という関係があるので、互いに無関係ではありませんが、期待インフレ率がゼロでない限り、両者は同じ値を取りません。そこで、IS曲線とLM曲線を同一平面上に描く場合には、縦軸の利子率の目盛りの取り方に注意が必要です。すなわち、縦軸の目盛りを名目利子率とするのならば、IS曲線を描く場合はあらかじめ期待インフレ率分だけシフトしてやる必要があるのです。もしπe>0ならばIS曲線をその分だけ上方にシフトし、πe<0ならばIS曲線をその分だけ下方にシフトする必要があります。このようにして描かれたIS曲線と、LM曲線の交点が、財市場と貨幣市場を同時に均衡させる利子率と実質所得の組み合わせになります。

さて、次回の知識の泉では、今回の結果を踏まえていよいよ、総需要曲線の導出について考えてみます。

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