第13回:補説W〜数量競争と価格競争〜 2003年1月11日(土)

第11回の知識の泉で、寡占企業が生産量において競争する場合の分析について少しだけ触れました。詳しい内容はこの補説で取り上げる必要もなく、第11回の知識の泉にてかなり詳しく説明したのですが、そもそも企業というのは数量だけで競争しているわけではありません。今回は、寡占企業のもうひとつの競争形態である、価格競争について書いてみようと思います。

ある寡占企業1と2が、同質である財を販売しているとします。同質財の販売についての価格競争のことを、ベルトラン競争といいます。クールノー競争では2企業がお互いに、ライバルの生産量を予想しあって、自企業に最適な生産量を決めるというものでしたが、ベルトラン競争においては2企業は同時に財の価格を設定します。この場合、どのような結果になるでしょうか?結論から言ってしまうと、2企業の生産の限界費用が同じでかつ一定であれば、寡占市場に存在する企業がいくつであろうと、市場価格はその限界費用まで下がり、完全競争市場とまったく同じ結果になります。どうしてこのような結果になるのでしょう?仮に、企業1が限界費用よりも高い価格をつけるとしましょう。すると、企業2は、企業1が設定した価格よりほんの少しだけ安い価格をつけようとするでしょう。こうすることで、客の需要をすべてさらうことができるからです(客は、同質の財であれば少しでも安いものを買おうとすることに注意してください)。どちらの企業も、客をさらわれないようにするためには、限界費用に等しい価格を設定せざるを得ないのです。また、限界費用よりも低い価格を設定すれば、企業の利潤は負になる(補説Tを参照)ので、2企業の限界費用が同じでかつ一定という仮定のもとでは、ベルトラン競争における均衡価格は両社の限界費用となります。

それでは、両企業の限界費用が異なる場合はどのような結果になるでしょうか?企業1の限界費用をc1、企業2の限界費用をc2とし、c1>c2であるとしましょう。このような寡占市場におけるベルトラン競争の結果はどうなるでしょうか。上での議論を応用すれば、低コストの企業(すなわち企業2)が高コスト企業(すなわち企業1)の限界費用c1よりも少しだけ低い価格をつけることで需要をすべてさらうことができますね。よって、企業の限界費用が異なる場合のベルトラン競争では、市場価格は高コスト企業の限界費用に等しくなります。このとおり、数量競争と価格競争との結果は大きく異なります。

しかし、現実的に考えると、ベルトラン競争は大半の寡占企業の実態には当てはまりません。規模の経済がある多くの産業では、限界費用はきわめて低いと考えられますが、価格がその水準にまで低下していることはまれです。なぜ、大半の寡占企業でベルトラン競争が生じないのでしょうか?

まず1つ目の理由に、寡占企業がライバルとまったく同質である財を生産していることはありえないからです。企業の製品が差別化されていれば、他社の商品より多少価格が高くても、その需要はゼロになりません。よって、企業は意図的に製品を差別化しようとします。例として、製品同士には代替性があるが、完全には同質でない財を販売している2企業が価格を設定する場合を考えましょう。企業1は自社の製品に価格p1をつけ、企業2は自社の製品に価格p2をつけるとします。このときの財q1、q2への需要は、qi=1−αpi+βpj(ここでαは正の数で、α>β、i≠j、i、j=1、2)で、企業の生産費用は話を簡単にするためにゼロであるとします。製品同士が代替財である場合、ライバル企業の価格が上がれば自企業の製品への需要が高まるので、β>0です。

企業1は、企業2の価格p2を予想して、自社の利潤を最大化するようにp1を選びます。生産費用はゼロなので、企業1の利潤は企業1が設定する価格p1に企業1の生産量q1をかけたものになります。すなわち、

π1(p1,p2)=q1・p1=(1−αp1+βp2)p1 となります。

企業1が値上げすると、一方で利幅(価格−限界費用)を大きくしますが、他方で企業1の製品への需要量を減少させます。利幅を大きくすることの利潤への効果は販売量に比例し、需要量減少のマイナス効果は利幅(このケースでは、価格)に比例します。よって、1単位の値上げによる利潤の変化は、

Δπ1=q1+(∂q1/∂p1)p1 で表されます。

ここで、∂q1/∂p1は企業1の需要曲線の傾きです。上の式を、限界費用=0にするような価格p1が、企業1にとって最適な価格となります。実際にπ1をp1で微分して、最適な価格を求めてみましょう。

∂π1/∂p1=1−2αp1+βp2=0 より、 p1=(1+βp2)/2α と求まりました。

上の式は、価格競争における企業1の反応曲線で、R1(p2)=(1+βp2)/2αと表せます。同様に、企業2の反応曲線はR2(p1)=(1+βp1)/2αです。β>0ですから、p2が上昇すると企業1の製品への需要量q1は増加します。以上より、Δπ1からわかるとおり、p2の上昇が需要曲線の傾き(∂q1/∂p1)に大きなマイナスの影響を持っていないとすると、企業1が値上げによって得られる利潤は増加します(この例では、∂q1/∂p1=−αなので、p2の上昇は企業1の需要曲線の傾きにまったく影響しません)。以上から、差別化された商品の価格競争では、ひとつの企業が値上げをすると、他社も値上げをします。このような場合、企業間には「戦略的補完性がある」といいます。価格競争におけるナッシュ均衡は、2社の反応曲線が交わる点であり、この例のナッシュ均衡価格はp1=p2=1/(2α−β)に決定します(←みなさんも、実際に計算してみてくださいね)。

大半の寡占企業にベルトラン競争が当てはまらない第2の理由は、生産能力の制約の存在です。生産能力に制約があれば、価格競争によって競争相手から客を奪うことができても供給が追いつきません。このような場合は、価格は需要が各企業の生産能力をちょうど使い切る水準になるように決定され、それより下がることはありません。それでは、そのような生産能力を企業がどのように決めているのでしょう?これは、クールノー競争と同じ結果になります。つまり、第1段階で生産能力を決定して、第2段階で生産能力の制約付きの価格競争をする場合の市場均衡は、クールノー競争の均衡と同じ結果になります。

大半の寡占企業にベルトラン競争が当てはまらない第3の理由は…第11回・第12回でも取り上げたようなカルテルの存在があるからです。仮に2社がまったく同質の製品を生産して価格を設定していても、企業同士が何回も競争する見通しがあれば協調の可能性が生まれてきます。カルテルがどのように成立するのかについては、第11回の知識の泉をぜひご覧になってみてください。

さて、次回の補説では、市場への参入と退出について少し触れてみようと思います。第10回の記事にて触れた自然独占にほんの少し関連すると思いますので、こちらもぜひご期待くださいませ。。

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