第10回:公共料金のお話〜独占企業とは〜 2002年12月1日(日)

電気料金・ガス料金・水道料金のことを、公共料金といいますよね。これらの公共料金の特徴として、利用度数に応じて課金される「使用料金」と、使用・未使用にかかわらず固定的に支払う「基本料金」とに分かれています。このように使用料金と基本料金の2部にわけて徴収する課金形式を、「二部料金制」といいます。ほかにも二部料金制の例としては、電話料金などが挙げられます。遊園地なども、入園料金と乗り物代とに分けて料金を取っているという意味で、二部料金制を採用していると言えます。では、なぜ公共料金は二部料金制を採用しているのでしょう?この疑問を解決するために、まずは独占企業のお話をしてみようと思います。

今までの知識の泉の中で、完全競争市場というものを何度か取り上げていました。完全競争市場に属する企業を完全競争企業といいますが、この特徴として価格独占力をまったく持たず、財・サービスの価格を所与のものとして行動するというものがありましたね。独占企業はその逆で、価格独占力を持っている企業のことです。価格独占力を持っている企業という意味では、寡占企業もそれを持っていますが、寡占企業は市場に複数存在しえるのに対し、独占企業は市場に1企業しか存在できません。独占企業(寡占企業にも当てはまりますが)は、価格独占力を持っているため、観戦競争企業に比べて高い価格を設定でき、得られる利潤も高くなります。このような利潤を独占利潤といいます。しかし、皆さんもご存知のとおり、市場の独占は独占禁止法によって規制されています。どうして独占が規制されるかというと、簡単に言えば完全競争市場に比べて社会的な損失が大きくなるからです。

市場が独占になる原因として、大きく2つがあります。ひとつは、ある企業が特許権などで保護された技術を持っており、その技術を生かして財やサービスを供給している場合です。かつてのポラロイド社のカメラなどが当てはまります。そしてもうひとつは、「規模の経済」の存在です。規模の経済とは、生産規模を拡大すればするほど、その生産費用が逓減するという効率性のことです。どの市場にも必ずしも当てはまるわけではありませんが、とりわけ需要の規模に対して規模の経済が強く働く財・サービスでは、1企業における生産規模が大きければ大きいほど、その生産費用が低下して利潤が増加するため、放っておけば市場に属する企業は、吸収合併を繰り返したり、市場からの退出が生じたりして独占市場になります。このような独占形態を「自然独占」といい、電気・ガス・水道などの分野は自然独占です。ちなみに今挙げた3分野の市場は、地域ごとに独占なので、地域独占といえます。

市場に企業が参入する際、その障壁となって働く要因のことを参入障壁といいますが、上で挙げた「特許権等による技術保護」や「規模の経済による固定費用逓減」は参入障壁です。この参入障壁が強い市場では独占になりやすく、このような参入障壁が弱い(もしくは、まったくない)市場では複数の企業が存在しえて、完全競争市場になるわけです。

続いて、独占企業の利潤最大化を検討しましょう。独占市場では企業が1企業しか存在しないため、市場の需要曲線がそのまま独占企業の需要曲線になります。ここでは話を簡単にするために、需要曲線は右下がりの線形(Y=-aX+b)であると仮定します。利潤最大化の条件は、限界収入(完全競争市場では、価格=限界収入でしたね…補説T参照)が限界費用に等しくなることです。そこで、限界収入を導出してみましょう。企業は需要曲線上の生産量と価格で生産するので、独占企業の総収入は

TR=XY=(-aX+b)X です。

限界収入は、生産量が微小増加した際の収入の増加量でしたから、TRを生産量で微分することで求まります。つまり、

MR=dTR/dX=-2aX+b です。

このことより、線形の需要曲線に直面する独占企業の限界収入曲線は、需要曲線の2倍の傾きを持つことがわかります(完全競争企業の限界収入曲線は、価格Pで水平な直線でした)。この限界収入曲線と、独占企業の限界費用曲線が交わる点で、独占企業の生産量が決定するわけです。ここで、需要曲線と限界収入曲線の位置関係を考えると、X>0の範囲では、上で求めた結果より常に限界収入曲線は需要曲線より下方にあることがわかります(求めた曲線の方程式をグラフとして描いてみれば一目瞭然です)。つまり、限界収入曲線上で求まる価格と、その生産量を需要曲線上にプロットした場合に決定する価格を比較すれば、需要曲線上で決まる価格の方が高くなります(この差分が、企業の短期的な独占利潤です)。しかし、その生産量は完全競争市場における行動分析から算出される生産量よりも少なくなります。以上より、独占企業は完全競争企業に比べて財やサービスを過小供給し、高い利潤を得ることになります。この過小供給によって生じる損失を、死荷重損失といいます。

上で書いた死荷重損失は、自然独占市場においても当然発生します。社会的に見て効率的な供給量は、需要曲線と企業の限界費用曲線とが交わる点になる(つまり、完全競争市場での分析結果と等しくなる)のですが、規模の経済が著しく強く働く自然独占企業においては、限界費用は常に平均費用を下回る(限界費用曲線が、平均費用曲線の極小点を通ることに注意してください…補説T参照)ので、社会的に効率的な生産量で供給を続けると、企業は赤字になってしまいます(価格<平均費用のとき、企業の利潤は負です…補説T参照)。この赤字を埋めるために、どのような方法があるでしょう?

まず、政府からの補助金政策が考えられます。つまり、企業は社会的に効率的な生産量で供給し(つまり、価格が限界費用に等しくなる水準で生産する)、それによって発生する赤字分を政府が補助金として補填するわけです。このような価格形成を、限界費用価格形成原理といいます。この場合、死荷重損失の問題は解決されますが、新たな問題として、赤字がなくなるという保証がなされてしまうため、企業自身が費用削減に向けての努力を怠ってしまう可能性があるのです。つまり、費用最小化を怠った結果、生産費用が上昇して赤字が拡大したとしても、政府から見ればその赤字が純粋に発生した赤字なのか、費用最小化を怠って発生した赤字なのかの判断が容易にできないため、社会的に非効率が生じるわけです。このような社会的非効率のことを、X非効率といいます。また、補助金政策の場合の補助金の財源は税金ですが、その課税が社会的な損失をもたらしたり、どのような税を課すことが社会的に公平なのかという問題もあります。

そこで、政府が補助金を負担せず、かつ死荷重損失をできる限り回避する方法を考えましょう。それが、平均費用価格形成原理といわれるもので、価格が平均費用に等しくなる水準で生産するわけです。こうすると、社会的に望ましい供給はなされないものの、独占的行動から生産される生産量よりも多い供給がなされ、かつ価格=平均費用なので企業の赤字は発生しません。しかし、これでもなお企業の赤字が発生しない保証があるため、企業の費用最小化へのインセンティブは弱いものになります。

さぁ、賢明な方ならば、ここまで読んでみて、二部料金制が採用されているわけがおぼろげながらわかったんではないでしょうか?限界費用価格形成原理における政府の補助金を、二部料金の基本料金にしたものを考えれば、企業は赤字を出さず、かつ政府からの補助金も不要で、さらには利用料金を限界費用に等しくなる水準に設定することによって、企業は社会的に効率的な供給を行うことが可能になるわけです。このとおり、二部料金制のもとでは効率的な資源配分を行うことができるというわけなのですが、それでもやはり、費用最小化の問題は解決していません。どうしてこの問題はなかなか解決されないのでしょうか?

その答えは実に簡単、独占企業だからです。独占企業とは、市場に1企業しか存在し得ない市場形態なので、ライバル企業が存在しないため、競争が必要ないのです。多少費用が高くなろうとも、独占利潤が得られる上、参入障壁が高いため、その独占利潤は長期的にも消滅しないので、費用最小化へのインセンティブは弱いものとなります。ただし、規模の経済が強い市場でも、その財・サービスに対する需要が非常に大きいものとなれば、平均費用が逓増する範囲で財やサービスを提供せざるを得なくなることがあります。このような場合であれば、独占市場においても複数の企業が存在しえる可能性はあります。そうなれば、相互の企業間の競争を認めることによって、費用最小化へのインセンティブを強めることに成功するでしょう(旧国鉄の民営化や、通信分野への民営企業参入認可などがいい例ですね)。つまり、社会的に見れば、完全競争市場が一番効率的な資源配分に成功する市場形態というわけであり、独禁法が独占を規制している理由なのです。

次回は、今回のお話に少しだけ関連して、寡占とカルテルについて書いてみたいと思います。

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