第9回:バブルの種類〜合理的とは?〜 2002年11月16日(土)

前回、バブルが発生するメカニズムについて簡単に説明をしました。ここでいちおう、簡単に復習しておくと、バブルとは、株価や地価などの資産価値が、実体的な経済的要因から大きくかけ離れて値上がりし、多くの人々が「今、土地や株を買っておけば、今後さらに値が上がるだろうから儲けることができる」と思い込んでいる状況が作り出すということでしたね。単純にバブルといっていますが、実はバブルにも2種類あります。これが、今回のテーマです。

そもそも、世間の人々は何の考えもなしに行動はしませんよね。経済学では、単純に過去のデータから現在や未来のデータを決定せず、現時点で入手可能なすべての情報(マクロ経済の構造や、政府の経済政策など)を駆使して期待形成を行おうという考え方を「合理的期待形成」といいます。では、バブル当時の人々がみな合理的であったとして、まさにバブルの渦中にいた人々は、どのような行動をとるのが合理的だったのでしょうか。人々は合理的であったので、もちろん当時の株価や地価がファンダメンタルズから乖離していることも知っているとします。このような状況で株式市場に参加することは、果たして「合理的」だったと言えるでしょうか。バブルが崩壊してしまった今の時点から見ると、おそらく答えは明らかでしょう。ファンダメンタルズの裏づけがない市場には、参加すべきではなかったということです。しかし、実際には100円の価値しかないような株が今1000円であるとして、その株を買うと1ヵ月後には1100円で売れると信じられるだけの十分な根拠があるのなら、その株を1000円で購入することは「不合理」とは言い切れません。特に、株価が当分の間値上がりするだろうという「期待」があって、実際そのような期待が過去の経験からも常に満たされているとしたら、バブルとはわかっていてもその株を買うことは正当化されるでしょう。値上がりが値上がりを呼ぶ状態が続き、気体が必ず実現しつづけている状態のもとでは、株価がファンダメンタルズを超えているとわかっていても市場に参加することが合理的であるし、そのような期待形成が合理的である限り、期待は実現します。つまり、ここで重要なのは企業の実力や金利などのファンダメンタルズではなくて、株価が右肩上がりであるという状態を合理的に予測できるかどうかです。このようなバブルを「合理的バブル」といいます。

合理的バブルが成立する必要条件は、バブルの規模が経済の規模よりもゆっくり成長することです。もしバブルの規模が経済規模よりも速く成長すれば、やがてバブルが経済の全資産の大きさを超えてしまい、買い手の連鎖が途中で途切れてしまうからです。

合理的バブルに対して、「非合理的バブル」というのがあります。これは、人々がファンダメンタルズを合理的に判断していない時に発生するバブルといえます。たとえば、ある人が値打ちのない株を騙されて買わされたとしましょう。この人がもし、この世で一番のバカだったとすれば、この人はいわゆる「ババを引かされた」ことになるわけです。しかし、世の中にはさらに多くの、彼以上のバカがいるとすれば、その人々がさらに高い価格でその株を買うでしょう。このとおり、非合理な行動から値打ちのない株を買った人でも儲ける可能性はあり、その連鎖が続いている間は株価がファンダメンタルズから乖離しているのでバブルが続くことになります。最終的には、誰か(すなわち、一番のバカ)が紙切れ同然の株をつかまされて大損することで、このバブルは崩壊します。このようなバブルを「非合理的バブル」といいます。

もっとも、実際の資産価値の高騰がファンダメンタルズによるものなのか、合理的バブルなのか、はたまた非合理的バブルなのか、簡単には識別することができません。何がバブルであるのかを判定するのが、いかに難しいことであるかという例を挙げようと思います。例えば、現在世の中に広く出回っている紙幣の存在。中央銀行が発行している紙幣には、それ自体には何のファンダメンタルズにも裏付けられていません。ただの紙切れと考えれば、紙幣が今日のように広く流通することはありえませんね。しかし、人々が「紙幣は他の人々に支持を受けているのだから、たとえファンダメンタルズからいえば価値のないものでも、あたかも価値のあるものとみなして行動すべきだ」と合理的に考えるなら、紙幣は額面どおりの価値を実際に生み出すことができるわけです。そうすると、紙幣の存在は合理的バブルだということになります。これにはちょっとびっくりですねぇ。。

でも、もっと突き詰めて考えてみましょう。紙幣のファンダメンタルな価値というのは、単に紙幣を印刷する費用なのではなく、「交換を効率化するという機能」そのものにあると考えるとすれば、紙幣の存在は決してバブルではなくて、ファンダメンタルズを反映したものだということになりますね。資産価値の高騰が合理的バブルによるものだと考えられる場合でも、同様の理屈を考えることは可能です。すなわち、資産が増えることによる効用を人々が強く感じるならば、資産価値の上昇を狭義のファンダメンタルズでは評価できなくても、社会的にみんなが幸せな気分になれるという点でそれなりの効用をもたらすとみなすのであれば、それは必ずしもバブルではないということになるでしょう。このように、ファンダメンタルズの意味を広く考えれば考えるほど、ファンダメンタルズかバブルかという決定は困難になるのです。ちょっと難しかったでしょうか…汗。。

今回で、バブルに関するお話はひとまず終わりです。次回のネタ、再来週までに考えないとなぁ…憤死

※貨幣の交換効率化機能…世の中に広く出回っている貨幣ですが、その機能は大きく2つあります。1つがこの、交換効率化の機能です。要するに、単純な物々交換を行う代わりに、貨幣を介した交換を行うことで、交換行為が簡易化できるというわけです。ちなみにもう1つの機能は、財産を貯蔵するための機能です。この辺については、また補説コーナーを設けてじっくりお話できるといいなと思ってます。

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